まるで土嚢

おはようからおやすみまで土嚢

ときめきインダストリアル

みなさんインダストリアルという言葉はご存知であろうか。

私が愛してやまないWikipediaによると

電子音楽の一種で、ノイズミュージックと関連性が大きい。

或いは

・インダストリアルデザイン、工業製品として機能性を高めることを目的としたもの、工業デザイン、工業意匠とも言われる。

というような記述がなされている。
上記の内容は私が各項目を読んだ結果を掻い摘んだものであり、詳細な説明については各自でお調べいただきたい。

ところで全然違う話なんだけれども、夏休みを終えた学生達を見るといつも思い出す。
今から遡ること十余年。
高校一年生の夏休み明け。
あの時期ほど病んでいたのは恐らく後にも先にもあの時だけであっただろうからここで懺悔しておく。

時はさらに遡って保育園のこと。

僕には好きな子がいた。
いや正確に言うと誰でも良かったかもしれない。
とにかく僕は女の子が好きだった。
いやそれに関しては今も変わっていない。
女の子が好き。そう。誰でもいい。

いやここまで言うとまるで犯罪を犯す一歩手前みたいなので、もう少し理性的な人間であると言うことを付け加えておきたい。
数年後に「あいつやっぱり逮捕されたらしいよ」「えーやっぱりー?キモーい」「ちくわ大明神」とか言われないように十分気を付けて生活したいものだ。

話を戻そう。
僕は同い年のMちゃんに片想いをしていた。
Mちゃんは色白で清潔感があっていい匂いのする、将来一日中革靴を履いて仕事をして足が臭い僕とはまるで正反対の可愛い女の子であった。

ちなみに髪から香る匂いはパンテーンの匂いだと気がついたのは中2の時だった。

片想いは保育園の時代から高校時代にまで及んだ。
田舎の出の人なら理解してもらえると思うが、同じ年に生まれた以上保育園から中学、高校、下手をすれば大学まで教室が一緒なんて言うことはままある事なのだ。

しかし、シャイで奥手な僕はその甘酸っぱくもイカ臭い想いを告げることなく中学卒業まで至ってしまった。
しかしなんと幸いにもMちゃんと高校が一緒になったのである。

入学した数週間後にオリエンテーションだかレクリエーションだか親睦を目的にした二泊三日の宿泊研修が行われた。

そこで僕は急に何をトチ狂ったのか告白をした。
しかし返事はノーだった。
しかし、僕はこの時初めて好意というものをMちゃんに明らかにしたのであった。
それが功を奏したのかその一ヶ月後、なんとMちゃんから告白されるに至ったのだった。

有頂天である。

かくして付き合い始めた僕とMちゃんなのであったが、かれこれ10年以上も友達でいた為、交際関係に至ったは良いものの何をして良いのやらさっぱり分からず、友達以上の関係になったというのが何故か急に恥ずかしくなり、面と向かって話すということも急に出来なくなったのであった。

え?手を握る?はぁ、ムリムリ(苦笑)

因みにそんな状態だったので意思疎通は目の前にいるにも関わらずメールで意思を伝えていた。
携帯電話とはインダストリアルデザインに富んだ機械である。まさに人類の英知を体現したかのようだ。
だからこそ頼ってしまうのだ。

「何か食べに行こうか?」(メール)
M「えっ、なんでメールなの?口付いてんだから喋りなよ」

至極真っ当な意見である。
しかしちょっと棘のある言い方だったので腹が立った。

静かに壊れて行くようであった。
いや、既に壊れていたのかも知れない。
しかしこの時、Mちゃんは、フフ、自分だけの、フフ、存在…と勘違いをしていたので全く気にも留めていなかった。
この後盛大に振られるとも知らずに。

ともあれ一緒に登下校はしていたのであるが、夏休みを迎えて会えない日々が続いた。
メールでのコミュニケーションしか取れずにいた状況もそろそろ打破しなければなるまいと心に誓い、いわゆる「1ヶ月記念日」に改めてデートに誘う計画を練ったのだ。

行き先はもちろんゲームセンターもカラオケもボウリングも揃ってる近くのデパートだ。

あ、待てよ。その前にオシャレもしないとな。
いつだか何かの雑誌で見た髪の毛のセットのやり方を記憶の片隅から引っ張り出しながらセットの練習なんかして。

あ、そうだ。
「お母さんしまむらで何か服買ってきてー!」

デートの準備は万端だった。

数日前からお誘いの連絡も入れている。

僕は母親の買ってきたちょっとサイズ感の大きいカーゴパンツを履いて兄貴のお下がりのエイプのTシャツに袖を通し鏡の前でキメ顔をした。
両親にすぐ大きくなるからちょっと大きめのでいいわよね、という理由で大きめの服を買わされた中学生、というイメージがピッタリな男がいた。

1ヶ月記念日の前日。
時計が夜の9時を回った。
そろそろ寝る前にメールでも送るか。

「明日楽しみだね!!」
という文面に精一杯のキラキラした絵文字とハートを装飾して送信した。

……
………

おかしい今日は中々返事がこない。
あ、そうだ、これ風呂入ってるパターンだわ。
絶対そうだわ。分かってる。
それならじゃあ俺もウンコを済ませておこうと思った。

僕はトイレの扉を開き便座に腰掛けた瞬間、携帯からメールの着信音が流れた。

慌てて携帯を開いた。

「明日行けない。」

いつもなら女の子らしいキャピキャピしたハートとか星が文末にあるはずなんだけど、絵文字一つすらない。
それどころかMちゃんがメールで句読点使ってるの初めて見たよ。
お、それとも急用か?
それは仕方ない。焦るな俺。
OK、分かってる、こんな時は落ち着いて紳士的に対応して寛容なところをアピールするんだ。
「大丈夫だよ、何かあった?」
藤木君の唇の色の3割り増しくらいの顔色の悪い顔文字を文末に付けて素早く返した。そして、また素早く返信が来た。

「別れよう」

えっあっえっ?
ちょっと待って。そっちから告白して来たやんけ。俺のこと好きだったんじゃないの?
ちょっと前までデートも乗り気だったよね?
えっ、あっ、あれ、俺これ、だめだ。
今俺藤木君の唇の5割り増しくらいの気持ち悪い顔色になってるわ。

ガタガタ指を震わせながら慎重に文字を打った。

「そうだね、別れよう」
来る者拒まず去る者追わず…
ふふ、こんな紳士的な返信もなかなかないだろう…
かえってやっぱり貴方のことが忘れないってきっと連絡が来るはずだ…フフフ…




待てど暮らせどメールが返ってくることはなかった。

かれこれ一時間はトイレに篭った。
念のため伝えておくが便秘ではない。
ショックで立てなかったのである。
視界に入ったふぐりもしょぼりしていた。

その後、残りの夏休みは心にわだかまりを残しながら過ごした。

僕はちょっと病んで、モバゲーではハンドルネームを真の神みたいなやつに変え、そして別れをテーマにしたポエムを発表したりもした。
政治のニュースにも斜に構えたコメントをして見たりもした。
僕にとって世界は全て敵に見えた。

僕は僅かばかり病んで、庭先でプリクラを燃やした。手に持ったまま火をつけたら凄い勢いで火が付いた。火傷した。
プリクラって結構燃えやすいことを知った。

僕はかすかではあるが病んで、音楽を聴いて心を癒すことにした。
ノイズがかったようような音楽を。
電子音楽ではないが、ガレージロックなやつ。
ミッシェルガンエレファントの世界の終わりの狂ったかのようにヘビロテした。

悪いのは全部君だと思ってた

いやそんな事はない。
振り返れば大体自分が悪いのだ。
目の前に居ながらにして口も聞けず、行き帰りに付き合ってくれてるのにロクに喋りもせず、ただ付いて来てもらえてるだけで幸せだったのか。テリーのワンダーランドのモンスターか。

漠然とリアルが続いた。

返って来ることのない返事をいつまでも待った。